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人生という歯車に潤滑油を「エンパイア・オブ・ライト」【映画感想】

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淡々と毎日を繰り返す人間の営みは美しい。…とは言わないけれど、歯車のごとく摩擦を続けながら回り続ける人生に潤滑油をさす映画、を観てきました。

「エンパイア・オブ・ライト」(原題:Empire of Light)。監督はサム・メンデス氏で、2022年に制作されたイギリス・アメリカ合衆国のヒューマン・ラブストーリー作品です。

1980年代のイギリス、静かな海辺の町の映画館で

舞台は1980年代初頭のイギリスの静かな海辺の町。地元で愛される映画館、エンパイア劇場で働く女性ヒラリーと、夢を諦めてその映画館に就職した青年スティーヴンが出会い、心の距離を縮めていく物語です。

サウンドトラックが欲しいと思うくらい、音楽がまず素敵。静かなピアノ曲と生活音のみの導入に、一気に心掴まれました。ヒラリーの心を映すように、部屋で流される音楽。しだいに狂っていくボリューム…

心あたたまるラブ・ストーリーを想像していたら、人種差別、不倫、精神的な病、虐待のトラウマ…ちょっと詰め込みすぎじゃないかと思うほど、厳しい現実を突きつけられます。しかしそれでメンタルが抉られてしまうかと言えば、不思議とそうではありません。

それでも続く、人生について

けっして甘いことは言わないし、誤魔化しもない。けれど、したたかになれと諭してくるわけでもなく「それでも、こうやって生きていくんだよね」と、何気ない生活の営みについて再確認させられる作品です。

人生を歯車で例えるなら、この作品が潤滑油で、ちょっと錆び付いて鈍くなってた部分をすべらかにしてくれる感じ。ただ、シビアな状況を見せつけるだけの作品ではなくて、文学のように熟成された世界観が、冷静に現実を見つめさせてくれます。

これは<私たちみんなの物語>だ

作品のなかで「人生は心のあり方」だというメッセージが出てきます。人生は自分で選びとっていかなければならないものと、自分ではコントロールできない部分がある。しかしどんな時でも、人生は続いている。心のあり方が大切なのだと。

本作は、自分ではどうしようもない時期はやってくるけれど、耐えて乗り越えていくしかない<私たちの物語>とも言えます。

見つめることは、癒しになる。決して心の浮き立つ映画ではありませんが、これからの人生で繰り返し観たいと思える作品です。