3月29日発売のアシェット『江戸川乱歩と名作ミステリーの世界』4号は、「人間椅子」を含む乱歩の短編8作品。
アシェット4号は江戸川乱歩「人間椅子」ほか全8作品
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江戸川乱歩の「人間椅子」。読んだことはなくても聞いたことはある、という方も多いのではないでしょうか。
人間椅子はモロ怪奇系ですが、その他の収録作品はどちらかというとミステリータッチ。それぞれのあらすじをまとめておきます。
人間椅子
美しき女流作家のもとに1通の手紙が届く。手紙には“人間椅子”となって、座る女性の感触を密かに楽しむ、という男の告白が書かれていた。
1枚の切符
乱歩のデビュー作「二銭銅貨」と同時期に書かれた作品。女性が列車に轢かれて亡くなった。しかし殺人の疑いが浮上し、証拠がその夫(冨田博士)を犯人と示していた。
冨田博士を尊敬している左右田五郎(そうだごろう)は、“1枚の切符”を証拠として、無実を証明しようとする。
恐ろしき錯誤
火事で最愛の妻を失った北川。悲嘆に暮れていると、妻の死が殺人ではないかと匂わせる目撃談が浮上する。北川は妻を死に追いやった人物を特定し、復讐を誓う。
黒手組
名探偵・明智小五郎が暗号解読と誘拐事件に挑む!
人質をとって身代金を要求する犯罪集団「黒手組」。“私”の叔父も娘をさらわれ身代金に応じたものの、娘は帰ってこない。友人の明智小五郎に探偵を頼むと、意外な真相が明かされる。
夢遊病者の死
夢遊病の再発が原因で勤め先を失ってしまった彦太郎(ひこたろう)。再び父と暮らしはじめるが、日に日に折り合いが悪くなる。相も変わらず喧嘩した翌日、父親は還らぬ人となっていた。状況的に他殺であることは間違いなく、彦太郎は胸騒ぎを覚える。
モノグラム
失業中の栗原一造(くりはらいちぞう)が浅草公園のベンチに座っていると、田中三郎(たなかさぶろう)という若者と知り合う。接点のないはずのふたりだが、お互いにどこかで会ったことがあるような不思議な感情を抱く。
次に会ったとき、田中は合点がいった様子で「北川すみ子という女を御存じじゃないでしょうか」と尋ねてくる。すみ子は学生のころ、栗原が片想いしていた相手だった。
木馬は廻る
今年五十の格二郎(かくじろう)は、ラッパ吹きとして木馬館で働いていた。生活は苦しくても、愛するラッパが生き甲斐であり、木馬館には恋慕を感じる少女も働いていた。
しばし現実を忘れて、格二郎は今日も、明日も、明後日も、木馬の廻る世界に入り浸る。
火縄銃
“私”は友人の林一郎(はやしいちろう)から誘いを受け、同じく友人の橘悟郎(たちばなごろう)と共に山奥のホテルに遊びに出掛ける。しかし到着してみると、林は火縄銃で撃たれて亡くなっていた。
警察は林の義弟、二郎(じろう)を疑うが、橘が類いまれな推理力を発揮して無実を証明して見せる。
【感想】お気に入りは「モノグラム」「木馬は廻る」「火縄銃」

思わずニヤリとしてしまう「モノグラム」、文学的な「木馬は廻る」、続編が読みたくなる「火縄銃」がお気に入りでした。
火縄銃は、シャーロック・ホームズを彷彿とさせる犯罪心理学マニアの橘のキャラクターが素敵。短い話ですが、鮮やかです。
木馬は廻るは、くたびれた五十男の哀愁を幻想的に描き出していて、文学を読んだ気分。ハッピーではないんだけれど、廻り続ける木馬に慰められます。
そしてモノグラムは、「どこかで会った気がする」理由が明かされてからの、新事実と顛末に思わずニヤリ。
夢遊病者の死は、2号に収録されていた「二癈人(にはいじん)」と毛色が似ていて、胸が苦しくなります。何より、父と息子の愛と憎しみがない交ぜになった会話が生々しくて印象的です。
恐ろしき錯誤の面白さ、というか、不気味さも捨てがたい…なかなかどれも濃いお話でした。
