※※本ブログにはEndless SHOCKのネタバレが含まれますご注意ください※※
※※敬称略※※
22段、高さ4.84メートル。舞台に組まれた赤い階段から、言葉の通り主演が転がり落ちた。
大変な事故だ。絶叫と共に舞台は暗転する。
幕間に入り、客席が明るくなる。虚構と現実が入り混じり、トイレ待ちの長い列に加わっているあいだも、日常ではない気がした。
中学生のころから「いつかは行ってみたい」と思っていたEndless SHOCK。
堂本光一のミュージカル。「もっともチケット入手が困難な舞台」
いつかは、機会があれば、と思っているうちに気づけばアラサーである。2024年がラストイヤーと知り慌ててチケットを買い求めた。
いよいよ幕が上がる。
OvertureでスクリーンにKoichi Domotoと映し出された瞬間、自分で自分に戸惑ってしまうほど涙腺が緩んだ。
「いつかは……」とKinKi Kidsの曲ばかりを聴いていた内気な中高時代が蘇る。あの水色のMDプレーヤーはどこにやっただろう。
舞台に堂本光一その人が現れた。
うわ、生きてる。本当に小柄。実在してる。え、いる。そこにいる。
改めて思い出すと笑ってしまうくらい拙い言葉が頭を駆け巡る。本当に実在したんだ。本のなかでしか知らなかった幻の生き物を目撃したみたい。
光一を中心に、カンパニー全員がNEW HORIZONを歌い踊る。その瞬間、幻の生き物から心を引き戻されて、これからいよいよ展開されていく舞台に胸がときめく。
サントラで聴けばいい、映像で観ればいいと思っていたこれまでの自分がかき消された。
舞台は生き物。Endless SHOCKでのちに出てくるこの言葉を、もうすでに痛いほど予感している。
最初は近くの客席からかと思っていたけど、時折ふわりと甘い香りがする。そんなに近いわけでもないが、舞台からのような気が段々としてきた。
もしかして彼の……? という発想はさすがに自分で苦笑い。けれどカンパニーが揃っているときに割合多く感じていたから、舞台メイクの香りなのかもしれない。
この香りが妙になまめかしい甘さで、夢のような舞台の幻想性を高めている気がして印象的だった。まあ客席のマダムの香りという線も濃厚だけれど。
光一の細い背中にワイヤーが装着される。
飛んだ。
人間をやめたのかと思うくらい優雅に飛んだ。
舞う美しさもさることながら、どの角度から見ても一律に美しいってやっぱりすごいことだと思う。仰ぎ見る姿がこんなにきれいとは想像もしていなかった。
そしてコウイチその人の人生である。
舞台の熱に浮かされたまま興奮状態で帰路につき、徐々に落ち着いてくると、コウイチその人の悲劇を哀しむ暇もなかったと気がついて最後の衝撃を受ける。
show must go onにこだわるあまりの悲劇、死して尚舞台に、カンパニーのところに戻ってきてしまう想い。これから先にあったはずの数々の人生と舞台に立てない無念
ひたむきに舞台人として駆け抜けた生涯、といえば耳馴染みはいいれけど、あまりに残酷である。
その悲しみを秘めたからこそともいえる、希望に満ちた大円団。夢はまだまだ“続く”のだと
ふと彼が表紙でEndless SHOCKを特集している日経エンタテイメントのことを思い出して、居ても立っても居られずその夜のうちに書店へ向かった。
22段、高さ4.84メートル。
誌面で赤い階段の情報を目にしたとき、舞台であることを忘れて息を呑んだ「階段落ち」がまざまざと思い出されて、光一もまた命を削りながら舞台に立っているのだと思い知らされる。
哀しくも美しく、すべてを舞台に捧げたコウイチの生き方は、奇しくも光一と重なる部分が多い。
幕が上がればコウイチはそこにいて、幕を上げるために光一はいる。
今から11月のチケットは取れるだろうかと気が気でない。