神の贈り物というべき才能と美貌をもつ綾部蓮。大学生活でも人気者だった彼は、なぜ自ら死を選んだのか?
SNSの読了ハッシュタグで気になって保存していた岩下悠子の『漣の王国』。こんな1冊と出会えるんだからSNSはやめられません。
青春時代特有の危うさ、脆さ、美しさ、そして耽美さ
神に愛されし青年はなぜ自殺した?4編の連作ミステリー
女も男も、みなが綾部に気に入られようとしている。みなが綾部に傅き、綾部の寵を得ようと頑張っている。
神に愛されたというべき才能あふれる美貌の青年、綾部蓮(あやべれん)。性別を問わず絶大な人気を誇る彼は、あたかも一国の王のごとき存在感を放ちながら大学生活を送っていました。
しかし、そんな彼が最終的に選んだのは自殺。
「人生イージーモードのはずの彼がどうして?」という謎が、綾部の存在に少なからず影響を受けた4人の物語から次第に浮き上がっていきます。
作者は、人気ドラマ「相棒」や「科捜研の女」などの脚本を数多く手掛ける岩下悠子。
そうと知って「さすが……」と納得してしまうほど、人と人が関わり合うことで生まれるドラマ性に引き込まれました。
「生まれる」ことの是非とバタフライエフェクト
『漣の王国』を読んで思ったのは、そもそも人は「生まれてきたほうがいいのか」「生まれてこないほうがいいのか」という哲学的な問いです。
人はどうして生まれてくるのか、生まれる幸せよりも、生まれない幸せがあるのではないか?
到底答えに辿り着けそうもないその問いを具現化したのが、綾部蓮という存在に思えてなりませんでした。
そして、たった1羽の蝶の羽ばたきが遠くの国で竜巻を起こす可能性があるように、人ひとりが「生まれる」ということで起こる他者への影響は良くも悪くも計り知れません。
『理解されるよりも理解することを、愛されるよりも愛することを、私が求めますよう』
これは登場人物のひとりが熱心に唱えていた聖フランシスコの平和の祈りです。
綾部蓮という存在が漣のように、いろんな人の人生に波及していく。もし「生まれる」ことに意味があるとしたら、自分ではなく他人のなかにあるのかな、とも感じます。
ちなみに読み終えてから、ネットで編集者インタビューの記事を見かけて、本作のテーマが「変身」とありまた感動とも納得ともつかない深いため息がでました。
そして余計に、綾部蓮の死にざまが胸に刺さります。