アシェットの隔週コレクション「江戸川乱歩と名作ミステリーの世界」21号にて、黒岩涙香(くろいわるいこう)作品を読みました。
表題でもある『無惨』は、日本初の創作探偵小説! そのほか、涙香が海外作品を“翻案”した『血の文字』、『暗黒星』が収録されています。
黒岩涙香による日本初の創作探偵小説『無惨』

日本で初めての創作探偵小説。一体どんな話なのか気になる人は多いと思います。
かくいう私もワクワクしながら開いた1ページ目で「……そうくるか~」と頭を抱えてしまいました。
明治時代に生まれた本作は、文語体といわれる文章で普段読んでいる口語体の小説に比べるとかなり読みにくい印象です。
ただ、殺人事件があって犯人を推理するというミステリーでおなじみのストーリーラインは分かりやすく、会話の部分は大分くだけた表現なので、いつも以上に時間をかければ読了できます。
あらすじ
タイトルの通り、無惨な男の死体が発見されます。あまりに凄惨な状態で、犯人や手がかりはおろか、被害者の身元すら分かりません。
そんな無惨な事件を探偵するのが、正反対なタイプといえる2人の刑事たち。1人はベテランで行動派の谷間田(たにまだ)。もう1人は若手で理論派の大鞆(おおもと)です。
唯一の手がかりである、死体が掴んでいた数本の髪の毛から、2人は違ったアプローチで真犯人に近づいていきます。
医大生と名探偵のコンビが殺人犯人を追う『血の文字』

※写真はイメージ
『血の文字』は、エミール・ガボリオの「バティニョールの小男」という作品を涙香が翻案したものです。
語り部の医大生と、警察から一目置かれている探偵・目科(めしな)が事件を追うバディものとしても楽しめる内容で、殺人現場に残された血の文字や証拠品から真犯人に迫ります。
こちらも『無惨』と同様、文語体で読みにくさはあるんですが、主人公コンビと事件の謎が今読んでも色褪せることなく魅力的でした。
皆余の周囲に立ち「何だ「何事だ「何うした「何うしました」と慌ただしく詰め問う声
明治時代にこんなお話が……終末SF『暗黒星』
『暗黒星』も涙香が翻案したもので、シモン・ニューコムの「世界の果」が元になっています。
前の2作品とは毛色がだいぶ異なり、文明が発展し切ってから数千年も経った未来が舞台のSF作品です。こちらはかなり口語体に近づいていて、ちょっと硬質な翻訳小説を読んでいる感覚でした。
科学は解明され尽くされ、人類は共通の言葉を駆使し、戦争もなければ心が浮き立つこともない、停滞と退屈の時代。そんな人類の前に突如、太陽に向かって進む暗黒星が観測されーー
本作はゾクゾク、ぞわぞわしながら一気読み。前の2作品に比べて文章がやさしく、短めだったのもあるのですが、映像として悪夢に出てきそうな展開は今思い出しても血の気が引く感じがあります。
