美しい男娼の耽美な話、というのに興味をひかれて手に取った『人形(以下、ギニョル)』。
第3回ホラーサスペンス大賞の大賞受賞作品で、出版は2003年。電子書籍版はなく入手はやや難しめです(図書館で借りました)
身も蓋もなくあらすじをいうと、美しくマゾヒスティックなホームレス男娼を監禁するSM小説家とエロカメラマンの物語。男たちがギニョルを支配していたはずなのに、じつは……
この手の凄惨性をウリにした作品って嫌悪感しか残らないことも多いですが(でもたまに読んじゃうから不思議)、ギニョルは不穏な物語としての余韻をたしかに残します。
支配しているつもりが墜ちている
まず内容が内容なのでぬるいということはないですが、直接的な描写はなくグロテスクが苦手な私でも目をそらさず読めました。なので、過激さを求める人にはやや雰囲気寄りで物足りないかもしれません。
しかしシチュエーションはどこまでも後ろめたく官能的。そして肉体的な加虐者と被虐者の立場ははっきりしているのに、ズブズブと沈んで囚われていくのは監禁する側だったーーという男娼ギニョルの存在が妖しく耽美的です。
半分くらい読んだところでは、「おどろおどろしいけど、それだけかな」というのが正直な感想。中だるみを感じつつも見届けた幕切れに、やっぱり感想文を書いて残しておこうかなというくらい気持ちが変わりました。
閉じられた「3人」の世界
SとMで閉じられてしまいがちな世界で「3人」という意味は大きかったと思います。
ギニョルと小説家(私)だけでは鬱々として気持ちの悪い話にしかならなかったかもしれません。そこに仕事のできる行動派なカメラマンが加わることで展開に弾みがつき、人間らしい交流と会話が生まれて物語が進んでいく
今ですら手に入りにくい状況で、今後ますます知る人ぞ知るカルト作品になっていくのではないかなと思いました。
作者の「佐藤ラギ」が、この1冊のみしか出しておらず、どんな人物なのかも謎に包まれているところがまた、ギニョルの妖しい魅力に繋がっているように感じます。