日本三大奇書にして、反推理小説(アンチ・ミステリー)の傑作、中井英夫『虚無への供物』。布教せずとも本作の信奉者はすこぶる多いと思いますが、オーディブル版がこれまた最ッ高なのです。
オーディブルはプロのナレーターが朗読する、いわゆる「聴く読書」サービス。正直、作品によっては当たりはずれもあるのですが、『虚無への供物』は何度でも聴き直したくなるくらいの没入感があります。
※Amazonプライム会員かつ適用条件を満たす方が対象です。登録前に申込画面に「4か月 月額99円」と表示されていることをご確認ください。5か月目以降は月額1,500円です。
※キャンペーン対象外の場合、30日間の無料体験が利用できる場合があります。
読者を果てしない迷宮へと誘うアンチ・ミステリーの傑作『虚無への供物』
『虚無への供物』の舞台は、戦後の東京。奇妙な死が相次ぐ一族・氷沼家を巡り、素人探偵たちがさまざまな推理を繰り広げます。
しかし推理が重なるほど謎は深まり、「真実とは何か?」読者を果てしない迷宮へと誘う壮大なアンチ・ミステリーへと変貌していく作品です。
私が『虚無への供物』 に惹かれる理由は、まずその世界観。美しい少年がなまめかしくサロメを舞うゲイバーから始まる本作には、恋愛とも友情とも形容しがたい男性たちの不思議な関係性が息づいています。
そして悲劇を背負う氷沼家の生存者たち。思慕していた父を失い、若くして当主となった蒼司、密室殺人の創作にのめり込む紅司、ゲイバーの常連になる藍司。各々が現実の重たさから逃れるための“ワンダランド”を見出そうと藻掻き、その間にも氷沼家は静かに崩壊へと進んでいきます。
甘やかなイケボ朗読が物語を妖しく彩る
オーディブル版『虚無への供物』のナレーターを務めるのは、声優の林竜多郎さん。甘く爽やかなイケメンボイスで、物語の進行役ともいえるアリョーシャ(光田亜利夫)を脳内に浮かべると、林竜多郎さんの声でしか出てこないほど。
T──高校で、はじめて顔を見知った時の、甘美な誘いにも似た思いだけは忘れられない。食糧事情の悪化から、休校もしばしばという時期だったけれど、亜利夫はいつも、この催眠術師のようにどこか神秘的な顔を、遠くから見守るようにして過(すご)してきたのだった。……
アリョーシャが、若き氷沼家当主・蒼司と出会った学生時代を回想するシーン。「甘美な誘いにも似た思いだけは忘れられない。」で、私の耳はダンボになり、「この催眠術師のようにどこか神秘的な顔を、~」で、(こんな胸の内を聞いちゃって大丈夫……?)と勝手にドキドキしたりとだいぶ忙しい(笑)
さらに「本当に同じ人が朗読してるの?」と驚くほど登場人物によって声色を使い分けるため、素人探偵たちが好き放題語り合うシーンは、まるでラジオドラマを聴いているような臨場感があります。
特にシャンソン歌手の女性ホームズ、奈々村久生を演じる際の、淑やかでハスキーな声色が、本当に一曲歌ってほしいくらい素敵。かと思えば、おしゃべりな関西弁のおじさんの声になったり、耳の遠いおばあちゃんになったり、プロ声優、すごすぎます。
蒼司は布団に顎を埋め、歯を喰いしばるようにして、いきなり泣き出したのであった。(中略)
「さあ、もう大丈夫だ」
牟礼田は蒼司の顔の上に長身を折り屈めるようにして、力強くいった。
「ぼくが、何もかも片をつけてしまうから。……
パリから戻ってきた久生のフィアンセで、氷沼家の遠縁にあたる牟礼田俊夫。すらりと高身長で包容力のある紳士を思わせる低く通った声も、かなりドキドキのポイント多しです(耳ダンボ)。
『虚無への供物』をオーディブルで聴くのにかかる時間
『虚無への供物』は、新装版の文庫本で上下巻にわたる大長編。文字で読むのもそれなりに時間がかかり、聴く読書となると一ヶ月で読み切れるかどうか……というレベルです。
- 上巻:11時間15分(675分)
- 下巻:11時間59分(719分)
- 合計:23時間14分(1,394分)
再生時間は、ほぼ1日!
仮に1.2倍速にすると、総再生時間は19時間22分に短縮されます。
1.2倍速の場合、1日30分で約39日、1時間なら約19~20日で聴き終わる計算です。
オーディブルは月額1,500円で対象の本が聴き放題というサービスですが、もはや1ヶ月は『虚無への供物』を聴くためだけにある……(笑)。個人的にはそれだけの価値があると思っています。
私の場合は洗濯や料理の仕込みなど家事をしながら、散歩や乗り物移動中に聴き進めることが多いです。休憩がてら15分タイマーをセットして、目を閉じながら物語を聴くのも大切な時間。スキマ時間を探せば、1日30分は案外簡単に確保できる印象です。
オーディブルは作品単体を購入することもでき、その場合、『虚無への供物』は各巻3,500円とそれなりのお値段。データではなく、CDなど物体ありきで販売してくれたら手を出したいです(それくらいお気に入り)。
声に導かれて、もう一度ワンダランドへ
もともと『虚無への供物』は、その独特な世界観や登場人物たちの関係性に強く惹かれていた作品でした。
オーディブル版を聴いてみると、文字を追うだけでは気づかなかった感情の揺らぎや、会話の温度、妖しい空気感がより鮮明に立ち上がってきます。
林竜多郎さんの朗読は、単なる音読ではなく物語そのものを演じているよう。長大な作品にもかかわらず、気づけば氷沼家の迷宮にどっぷり浸かっていました。
妖しく、耽美で、どこか切ないワンダランド。声に導かれて迷い込むその迷宮は、きっと文字で読むのとはまた違う魅力を見せてくれます。
『虚無への供物』が好きな方はもちろん、気になっていたけれど読むタイミングを逃していた方にもおすすめしたいオーディブル作品です。
※Amazonプライム会員かつ適用条件を満たす方が対象です。登録前に申込画面に「4か月 月額99円」と表示されていることをご確認ください。5か月目以降は月額1,500円です。
※キャンペーン対象外の場合、30日間の無料体験が利用できる場合があります。


