横浜でのホテルステイ中、旅気分が高まってクリスティーの『バートラム・ホテルにて』を購入しました。
大都会ロンドンの一画にある、古めかしく立派なバートラム・ホテルが舞台となる本作。
優雅な休暇の裏で起こる不穏な出来事に、ミス・マープルとともに好奇心を刺激される物語でした。
“昔とちっとも変わらない”バートラム・ホテルに集う人々と事件の影
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ミス・マープルは早く目をさました、といっても早く目をさますのはいつものことだ。ベッドがよかったのだ。まことに気持ちよく眠れた。
ロンドンの一画で、エドワード王朝時代そのままの佇まいを保つバートラム・ホテル。
かつての思い出に浸ろうと休暇に訪れたミス・マープルも驚くほど、その場所の雰囲気や居心地のよさは変わっていません。
しかし、優雅なムード漂うホテルで起きた常連客の失踪事件、世間を騒がす窃盗団、のちに莫大な遺産を受け取ることになる若い娘の危険な恋ーーさまざまな事件の影がうごめいています。
今日は、何が起こるかわからない新しい日
「また新しい日ね」とミス・マープルはひとりごとをいって、いつものおだやかなよろこび方で、今日へのあいさつをする。また新しい日……何が起こるかわからない新しい日。
本作で特に印象的だったのが、ミス・マープルの朝時間。カーテンをひいて枕をなおし、祈祷書を読み、編み物をはじめる(リューマチでこわばっていた指も少しずつほぐれ、編み針の動きにスピードが出てくる)
そして編み物の手を止めて、頭の中でとりとめなく浮かぶ考えの流れに任せて過ごす姿が描かれます。
ミス・マープルは感情の浮き沈みに振り回されることがないのだろうなと思う、淡々とした日課の様子と、始まったばかりの1日を「何が起こるかわからない新しい日」と静かによろこんで迎える姿勢。
過去にはもどらない、人生は前に進むこと
実は本作、“ミス・マープルもの”というわりには、彼女の出番は多くありません。捜査にやってきた刑事から話を聞かれるホテル客のひとり、といった印象です。
しかし、だからこそ、ミス・マープルの示唆に富んだ発言が印象的。
わかっているつもりだったんですけれど、あらためて悟りましたーー人は過去へもどることも、また過去へもどろうとしてもいけないーー人生は前へ進むことだということ。ほんとに、人生って“一方通行”なんですね?
バートラム・ホテルのように、“昔とちっとも変わらない”存在は素敵なようであるけれど、人は成長するもので、人生という時間の流れの中にいる以上、“ずっと同じ”であることはほとんど不可能でしょう。
そして時代に合わせて、社会も目まぐるしく変わっていきます。「あの頃は……」と感傷めいても、戻ることは叶いません。
人生は一方通行。そして今日という日は、「何が起こるかわからない新しい日」。
それは少し怖くもあるけれど、好奇心に満ちて、とてもチャーミングな言葉だとも思うのです。
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