「江戸川乱歩と名作ミステリーの世界」16号は、コレクション初登場の芥川龍之介。
「魔術」ほか芥川龍之介のミステリな短編全9作品
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収録9作品のあらすじをまとめておきます。「開化の良人」と「開化の殺人」以外は完全に独立した短編作品です。
魔術
インド魔術の使い手ミスラ君が見せてくれた驚きの魔術に「私」は。
開化の良人(おっと)
博物館で「私」に会った老紳士が、ある友人について回想する。それは愛とは何かを巡る苦く切ない男の人生だった。
開化の殺人
ある夫婦宛てに出された「殺人告白」の手紙。「開化の良人」と登場人物がリンクする。
妙な話
「私」は旧友から妙な話を聞く。旧友の妹は欧州戦役中の夫からぱたりと手紙が届かなくなったころから神経衰弱が激しくなり、たびたび不気味な赤帽の姿を目にする。にやりと笑う赤帽曰くーー。
黒衣聖母
禁教時代に黒檀で作られた黒衣聖母(マリヤ観音)。所有者の田代君に見せてもらった「私」は、その美しい顔に悪意を感じ取る。田代君曰く、この立像には福を転じて禍とする妙な伝説があるという。
影
実業家である主人公は、妻の浮気を疑っている。とくに証拠も出ない探偵の調査結果に不満を抱いた主人公は、自ら現場をおさえようとするがーー。
奇妙な再会
妾のお蓮は、婆やとふたりきりで手狭な平屋に住んでいる。旦那の牧野が本妻を捨て自分と暮らそうという思いをちらつかせるたび、お蓮は別れた恋しい男のことを思い出しーー。
藪の中
藪の中でひとりの男が殺された。発見者や捕らえられた盗人、男の妻などが自分を中心に当時の有様を語るが、どれも微妙に内容が食い違いーー?
報恩記
盗賊の甚内(じんない)は、盗みに入った家の主がかつての恩人であることに気づく。恩人の会社が倒産寸前ということを盗み聞いた彼の胸は「恩返しをするときがきたのだ」と喜びに満ちーー。
にやり、ゾクリ、切ない…多彩なテイストが1冊に凝縮
星新一のような奇妙で短い物語からホラーみたいにぞわりと鳥肌が立つもの、じわじわ精神がおかされていくような不穏な作品まで、
ひとつひとつは短くてサラリと読めてしまうんですが、一気読みするには重たいような……消化がじっくりなんですよね。
どの作品も好みではあるのですが、あえてひとつ選ぶとすれば「妙な話」。赤帽の気味の悪さが、結末を迎えてからのほうがより増してくるというか。ミステリーというよりは不思議なお話寄りです。
不思議なお話といえば「黒衣聖母」はぞわりと怖い系。悪意を滲ませる聖母像というモチーフも、聖母像の恐ろしさを物語る逸話も無慈悲……いったい聖母とは。
「報恩記」は、いつかの恩が返ってきてまた繋がっていくーーという心あたたまる話のようで、結局、自己満足なのではないかというシニカルさが「ああ、きっと芥川作品ってこういう感じなんだな」と、蜘蛛の糸やら羅生門を思い出しました。
さらに個人的にはイケオジならぬ美オジであろう紳士が出てくる「開化の良人」「開化の殺人」がスルメ認定です。