「江戸川乱歩と名作ミステリーの世界」17号は、江戸川乱歩の「陰獣」「湖畔亭事件」の2作品が収録されています。
「陰獣」はタイトルを聞いたことがあったけど、どちらも初めて読む作品。紫色の表紙に、傷ついた女性のうなじ姿がなまめかしい絢爛たる1冊です。
江戸川乱歩「陰獣」「湖畔亭事件」あらすじ
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陰獣
探偵小説家の主人公が、博物館で自分のファンであるという女性・静子と知り合う。静子は、主人公とライバル関係ともいえる探偵小説家・春泥からストーカー紛いの脅迫を受けて怯えていた。もともと人嫌いであった春泥を実際に知るものは少なく、主人公もなんとか相手を探りだし静子を救おうとするのだがーー。
湖畔亭事件
片山里の温泉旅館で療養していた主人公。彼には覗き趣味があり、風呂場にしかけたレンズの装置で殺人を目撃してしまう。慌てた主人公は風呂場に駆けつけてみるが、死体も犯人の姿もない。同じく旅館に宿泊しており、気の合う青年と探偵してみると?
独特の読みやすさと色褪せないキャラクター性
最近の読書はエンタメ系やグルメ小説の気分で、なかなか既刊の「江戸川乱歩と名作ミステリーの世界」が読めていなかったのですが
いざページをめくってみると、乱歩作品には独特の読みやすさがあって、あっという間の読了でした。
とくに陰獣は主人公がしたためた記録を読んでいくような文体で、自分も物語のひとつになったみたい。内容は陰鬱ですが、おとぎ話を読んだ気分に近いです。
狂気の探偵小説家・春泥のモデルが乱歩自身で、屋根裏やD坂など有名作品に入り込んだような事件の展開にもワクワクします。
ちなみに「陰獣」とは、簡単にいうと陰気で不気味な生き物、という意味で乱歩が名付けていて、淫らな獣(=淫獣)と勘違いされるのは不本意だったそう……私も読むまで勘違いしていました。
性的倒錯者っぽい内容があって映像表現だとR指定になりそうですが、文章はあくまで淡々と。ムフフ…な感じはありません。
湖畔亭事件は、その時代ならではのおおらかさとでも言うのか、現代の感覚とのギャップがありつつも、古さを感じさせない人間ドラマが好みでした。どちらもオチが乱歩らしくて素敵(?)です。