アメリカの田舎町で、嫌われ者だった女性が殺された事件の真相を追う『誰も悲しまない殺人』(キャット・ローゼンフィールド、大谷瑠璃子訳)。
いわゆる因果応報。自業自得の事件でちょっとは心がスカッとするかなと思いきや、なかなか苦しい内容でした。
けれども、みるみる引き込まれていく物語です。
田舎町の人気者を無理やり夫にした“嫌われ女”が殺された
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舞台は、アメリカの田舎町カッパーフォールズ。町中の人から嫌われていた女性リジーが、自身の営んでいた貸別荘で殺されているのを発見されます。
捜査にやってきた州警察の刑事バードは、町の保安官たちですら被害者を毛嫌いしている様子に違和感を覚えます。
リジーの夫ドウェインは行方不明となっており、真っ先に第一容疑者と考えておかしくないものの、狭いコミュニティで幼い頃から顔見知りの保安官たちは「そんなやつじゃない」と否定。カッパーフォールズの住民にとって、リジーは町の人気者ドウェインを無理やり夫にしたことでも、憎しみに近く嫌われているのでしたーー。
閉鎖的な田舎町特有の息苦しさ
カッパーフォールズはそういう場所なのだ。早々に割り当てられた役割が死ぬまで続く場所。一度そういう存在だと決められたら、それ以外になることは許されない。貼られたレッテルが絶対というわけだ。よかれ悪しかれ。
何より印象的だったのが、このカッパーフォールズの雰囲気。絵に描いたような閉塞的な田舎町で、住民たちの結束が固い一方で、弾かれた人々への扱いが辛辣です。
私も田舎のコミュニティに馴染めず、都会に出てきた人間なので、“仲間は必ず守るけど、それ以外は絶対に受け入れないぞ”という住民たちの態度にひやりと冷たいものを感じます。
田舎者が「何者かになりたい」と願い、上京してくるってイメージがありますけど、むしろ「自分のことを誰も知らない、気にも留めない」そんな都会の冷たさに惹かれてやってくる人も多いと、改めてそんな気がします。
そして第二の容疑者が、都会で華やかに暮らす美人インフルエンサー。彼女は殺人現場となった別荘を、リジーから借りていたのでした。
一人称の詩的な文章に惹かれる
時折り垣間見える、一人称視点の詩的な文章に惹かれました。核心に触れない部分でお気に入りを引用します。
もしあの女がそんなことを言うなら、その言葉が候に詰まればいいと思う。あの女がその言葉で窒息して、灰色になればいいと思う。
まるで年々毒を飲みつづけるうちに、それ以外の味が思い出せなくなり、いつしか毒の味になじんでしまったかのような、そんな日々だったこと。
苦い、苦いと思いながらも、それを飲み続けていくうちに、それ以外の味があったことも忘れ、欲しいと願うことすらしなくなる。なんとなく想像がついてしまうからこそ、ぞっとします。
展開は読めても引き込まれてしまう物語の行方
ミステリー的に言えば、先の展開が結構読めてしまう部分があり、途中で「やっぱりな」と勘づく人は多いかもしれません。
手に取ったときに期待したスカッと感とは程遠い余韻。けれど苦い毒の擬似体験は、ある女性の一生に思いを馳せ、自分も逞しく生きねばという気分にさせてくれます。
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