名探偵・火村英生シリーズや江神二郎シリーズで知られる人気ミステリー作家、有栖川有栖。
ノンシリーズ短編集『ジュリエットの悲鳴』は、有栖川作品らしい端正な文章と、奇妙な余韻の残る物語が詰まった1冊でした。
熱狂的ロックバンドの曲に紛れた悲鳴——『ジュリエットの悲鳴』
表題作『ジュリエットの悲鳴』は、この短編集を編むために書き下ろされた作品で、まずタイトルがとても印象的。
通称“ロミオ”と呼ばれるボーカルを擁する人気ロックバンド。そのある楽曲に「女性の悲鳴が入っている」という噂が流れ始めます。
ライブ終演後、ロミオはその悲鳴に心当たりがある素振りを見せ、静かに過去を語りはじめるのでしたーー。
『ジュリエットの悲鳴』には全部で12篇収録されています。
美しい風景のなかに潜む執着——『裏切る眼』
個人的にいちばん心に残ったのは『裏切る眼』でした。
新緑の別荘地を、小犬のように駆けていく少年。その後ろを歩く若い男女。
女性は少年の母親で、男はその女性の夫の従弟。かつて2人は危うい関係にありましたが、夫(従兄)の死を境に別れることに。
久しぶりの再会のなか、女性は「夫が死んだことより、あなたが迎えに来てくれなかったことのほうがショックだった」と告げます。
そして彼女は、夫の死の真相を語り始めるのです。
現代の寓話のようなノンシリーズ短編集
短編集全体を通して、「女性の底の知れなさ」と「男性の弱さ」が繰り返し描かれているように感じました。
「現実にはいないような登場人物」なのに、「物語としては妙にわかってしまう」。この距離感が、この短編集の“奇妙な味”をつくっているのだと思います。
また、有栖川有栖らしく、あとがきにある<私の小説には隙あらば鉄道が出てくる>という言葉通り、車窓に流れる風景と回想が結びつく作品も印象的でした。


