恩田陸の長編バレエ小説『spring』。
読み進めていくうちに、ひとりの稀有な才能をめぐる物語が少しずつ立ち上がり、気づけば最後にはステージに向けられた大歓声が聴こえてくるような一冊でした。
バレエのために生まれてきたといっても過言ではない存在を目撃する高揚感と、その周囲に広がる人間関係の濃密さ。
気づけばページをめくる手が止まらない、恩田陸の長編バレエ小説『spring』
物語は、主人公、萬春(よろず・はる)──通称HALという存在を、さまざまな立場や角度から追いかけていく構成になっています。
萬春は、子どもの頃から美しく、大人たちの視線を自然と集めてしまう不思議な少年でした。
やがて出会ったバレエという世界に「かちっ」とはまり、その才能は最初からプロたちを驚かせるほど。
最初から溢れんばかりの才能が光り、いわゆる王道の成長譚と少し違い、かといって群像劇とも言い切れない。それでもページを開けばするすると読み進めてしまい、気づけばHALのいる世界に引き込まれていました。
ブロマンスとBL、それぞれの関係性の違いがくっきりと浮かび上がる
本作には、お互いを高め合うブロマンス的な関係と、同性同士の恋愛がはっきりと描かれています。
「ブロマンスもBLの一種なのでは?」
「恋愛要素があるかどうかの違い?」
なんとなく曖昧に理解していたこの2つの関係性ですが、『spring』を読んで、その違いが感覚として腑に落ちました。
どちらも似ているようでいて、まったく別の温度と方向を持っている。そしてそれらが同時に、ひとつの作品の中で成立していることに、強い驚きを覚えます。
才能と関係性、そのどちらにも飲み込まれる読書体験
恩田陸の『spring』は、ただのバレエ小説でも、ただの人間ドラマでもなく、才能と関係性の両方に圧倒される物語です。
読み終えたあともしばらく、舞台の余韻のようなものが残り続ける作品です。


