悩んだり、怯えたり、壊れたり……あらゆる「作家」をめぐる有栖川有栖の『作家小説』。
作家という生き方の内幕を覗けるのではという好奇心と、ほっと一息つきたいとにサクッと読めそうな短編集ということで手に取ってみたら、ぞわぞわと怖い印象ばかりが残る作品でした。
︎小説家の生き方が垣間見える小説集
『作家小説』は、その名の通り「作家」にまつわる8作品が収録されたミステリー作家、有栖川有栖川の短編集です。
彼の代表的なシリーズに作家を語り部にしたものもありますが、最近でいうと2025年に日本経済新聞の夕刊で連載していた『折れた岬』も、失踪した作家の謎をリタイア後の敏腕編集者が追うというものでした。
『折れた岬』は主人公(リタイアした編集者)の小説講座から始まり、小説家を志す青年との交流があったりと、創作にまつわる内容が盛り込まれていて「作家」への憧れを刺激される作品です。
そしてこの『作家小説』もまた、小説家の頭の中を覗きみるような面白さがありつつ、ミステリー作家らしい不穏な展開にぞわぞわ……。
収録作品の中には甘酸っぱいものやコメディタッチ、ファンタジーなものも含まれるのですが、ひとつの作品群として眺めたときに、読後感としてどうしても禍々しい印象が勝りました。
有栖川有栖川の異常心理やヒト怖系小説がもっと読みたくなる!
特に印象的だったのが「殺しにくるもの」「書かないでくれます?」の2作。
「殺しにくるもの」は、連続殺人の被害者たちが命を失う瞬間、刑事たちの捜査、女子高生が作家に送ったファンレターの3パートに分かれており、徐々に犯人の正体が浮かび上がってくるという作品。
犯人の不穏な動機はもちろん、平穏な日常を突然奪われる被害者たちの姿に不条理な怖さを感じずにはいられません。
「書かないでくれます?」は、先輩エッセイストの失踪に悩んでいる作家の話。失踪の原因に、先輩から譲り受けた“ネタ”が絡んでいるようでーー。
その“ネタ”の内容も、結末も、映像として浮かんでくる類の怖さがあって、『作家小説』の読後感の不気味さの大半は、本作からきていると思います。
どちらの作品も不気味ではあるけれど現実にないとも言い切れない絶妙なラインで、異常心理やヒト怖系が好きな方におすすめしたいです。


