読んだ者は精神に異常をきたす…と、まことしやかに囁かれる日本探偵小説三大奇書のひとつ「ドグラ・マグラ」。アシェットコレクションの6~8号をもってようやく完読できました!
とにかく、無事読みきれた自分にほっとしています。学生のころは序盤で諦め、今回も本を読んでいて気が遠くなっていく感覚を久しぶりに味わいましたので…
記憶を失った“私”に待ち受けるのはーー夢野久作「ドグラ・マグラ」
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「ドグラ・マグラ」は、アシェット3号でも登場した探偵小説家・夢野久作の代表作です。日本探偵小説三大奇書のひとつに数えられ、構想・執筆にかかった歳月はなんと10年以上。
簡単なあらすじを説明すると、精神病棟の独房で目覚めた“私”には一切の記憶がありません。学者によると、“私”の記憶のなかには重大事件の真相が隠されています。
“私”は記憶を取り戻すべく、学者から言われるまま実験に挑んでいきますがーー
猟奇的大事件、暗躍する怪人、稀有な美青年と稀代の美少女、精神病患者、祟りetc… よくもまあこんなに詰め込んだものだというくらい、探偵小説のエッセンスが凝縮されています。
夢野久作の文章がもつアブナイ心理作用
記憶や精神をテーマにした内容だけに、読んでいるこっちまで気持ちが不安定になっていく。しかも、わざと理解させまいとしているのではないかという文章が読経のように続くので、中盤は気づくと意識が遠のくことしばしば…
ただ面白くないとか、難解すぎるというのではなく、この「読経できてしまう文章」が心理的にアブナイなのではないかと思いました。実際に気が遠くなった中盤の文章を声に出してみると、何のひっかかりもなく歌うように読めてしまうんですよね。
能動的に読んでいるはずが、気づくと夢野久作の文章がもつ独特のリズムにのせられていて、暗示にでもかかったみたいに心がぐらぐら、ザワザワとしてくる…
気がつけば“私”と一緒に、怪しげな実験台に立たされていたのではないかと考えさせられる読後感でした。「読んだ者は精神に異常をきたす」というのも、あながち間違っていないのかもしれません。
「ドグラ・マグラ」は一種の脳髄の地獄
ドグラ・マグラとは何かを表現するのに、「一種の脳髄の地獄」という言葉が出てきたのが印象的でした。
うっかりネタバレはできませんが、犯人は誰か、真相は何かというミステリー的展開を超えて、謎そのものに脳髄を掌握され、激しくシェイクされている感覚。そんなけったいな言葉を表題にした本書を手にする私たちが味わうのもまた、一種の脳髄地獄といえるでしょう。
読むのではなく挑む、という言葉がふさわしい1冊です。