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有栖川有栖のノンシリーズ短編集『ジュリエットの悲鳴』奇妙な味の12篇

有栖川有栖 ジュリエットの悲鳴 ノンシリーズ 短編
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名探偵・火村英生シリーズや江神二郎シリーズで知られる人気ミステリー作家、有栖川有栖。

ノンシリーズ短編集『ジュリエットの悲鳴』は、有栖川作品らしい端正な文章と、奇妙な余韻の残る物語が詰まった1冊でした。

あや
あや
切なさやブラックユーモア、幻想性がほどよく混ざり合い、「本格ミステリ」というよりは、どこかやるせない人間ドラマを味わう感覚が強い短編集です。

熱狂的ロックバンドの曲に紛れた悲鳴——『ジュリエットの悲鳴』

表題作『ジュリエットの悲鳴』は、この短編集を編むために書き下ろされた作品で、まずタイトルがとても印象的。

通称“ロミオ”と呼ばれるボーカルを擁する人気ロックバンド。そのある楽曲に「女性の悲鳴が入っている」という噂が流れ始めます。

ライブ終演後、ロミオはその悲鳴に心当たりがある素振りを見せ、静かに過去を語りはじめるのでしたーー。

あや
あや
幻想的なムードとほろ苦い余韻が広がる作品で、他の短編でいうと『パテオ』も不思議な物語。作家たちが見る夢に、共通のパテオ(中庭)が登場しているようで……?

『ジュリエットの悲鳴』には全部で12篇収録されています。

美しい風景のなかに潜む執着——『裏切る眼』

個人的にいちばん心に残ったのは『裏切る眼』でした。

新緑の別荘地を、小犬のように駆けていく少年。その後ろを歩く若い男女。

女性は少年の母親で、男はその女性の夫の従弟。かつて2人は危うい関係にありましたが、夫(従兄)の死を境に別れることに。

久しぶりの再会のなか、女性は「夫が死んだことより、あなたが迎えに来てくれなかったことのほうがショックだった」と告げます。

そして彼女は、夫の死の真相を語り始めるのです。

あや
あや
瑞々しい初夏の景色と、女性の濃密な執着のコントラストが鮮烈。美しさと怖さが同時に押し寄せてくる、目を離せない一篇でした。

現代の寓話のようなノンシリーズ短編集

有栖川有栖 ジュリエットの悲鳴 ノンシリーズ 短編

短編集全体を通して、「女性の底の知れなさ」と「男性の弱さ」が繰り返し描かれているように感じました。

「現実にはいないような登場人物」なのに、「物語としては妙にわかってしまう」。この距離感が、この短編集の“奇妙な味”をつくっているのだと思います。

また、有栖川有栖らしく、あとがきにある<私の小説には隙あらば鉄道が出てくる>という言葉通り、車窓に流れる風景と回想が結びつく作品も印象的でした。

あや
あや
好きなものが滲む作家の小説はやはり強い。そう実感できる1冊です。
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