柚木麻子の『BUTTER』と、近藤史恵の『みかんとひよどり』を読みました。
2冊に共通するのは、読みながらモーレツに食欲が刺激されること。
作品に出てくる食事を実際に食べてみたいと心を動かされるグルメ小説です。
グルメ小説は好きでちょいちょい読みますが、今おすすめを聞かれたら真っ先に名を挙げたい2冊です。
食描写がきらめくほど闇が深まる『BUTTER』
『BUTTER(バター)』は絶品のグルメ小説でありながら、実在した“平成の毒婦”こと木嶋佳苗(きじまかなえ)をモデルにした社会派小説でもあります。
“若くも美しくもない”のに、男たちを貢がせ殺害した容疑で逮捕された梶井真奈子(通称カジマナ)。彼女は美食家で特にBUTTERに目がありません。
カジマナの独占取材を狙う女性記者の里佳は、なんとか彼女の心を掴もうと食をフックに面会に臨みます。
カジマナがうっとり振り替える食の思い出、彼女の身代わりとなってBUTTERに溺れていく里佳の変化など、
食の描写がきらきらと輝くほど、物語の闇は深まるという新感覚のグルメ小説です。
特にカジマナが熱心にグルメを語り、BUTTERに固執する様子は、かえって“飢え”を感じさせられ別の意味で喉が鳴ります。
ジビエから“食べること”を考える『みかんとひよどり』
『みかんとひよどり』はジビエ料理をテーマにしたビルトゥングスロマンもの。ジビエとは、狩猟で得た野生鳥獣の肉をいただく食文化のことです。
腕に自信はあるものの、ことごくと店を潰してしまうシェフの亮。無口な猟師の大高との交流をきっかけに、創作ジビエ料理の店を軌道にのせようと奮起します。
普段の食事ではなかなかお目にかかれないジビエ料理について、素人でもすんなりと入っていける分かりやすさ。そして実際に「食べてみたい」と探求心をくすぐられる亮の料理。
一方で、食べることは命をいただくこと。狩猟や鳥獣の解体シーンから目を背けることはできません。猟師に対する偏見や嫌がらせも……
食べる行為の奥には、命と生きることがある。おいしそうなグルメで心が満たされるだけでなく、食べることへの感謝がわき起こる1冊です。