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栗本薫が描くストーカーと愛の歪み『あなたとワルツを踊りたい』に震えた【あらすじ&感想】

あなたとワルツを踊りたい あらすじ 栗本薫 感想
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栗本薫の『あなたとワルツを踊りたい』を読んだら、感想があふれてあふれて止まりません!

この物語は、芸能人に夢中な23歳の平凡な女性・はづきが、ストーカーによって人生を崩壊させていくサイコサスペンスです。

読み終えたあと、ストーカーに関する法律を調べて驚いたのですが、ストーカー規制法を作るきっかけになった事件よりも前に書かれた作品であること。

あや
あや
はづきと同じように「何も起こっていないなら動けない」と警察に門前払いをくらった人たちが、どれくらいいたのだろうと想像するとゾッとします……。

【あらすじ】二つの愛憎劇が交錯する物語

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23歳の平凡なOL・はづき。彼女の日常は、見知らぬ男からの執拗なストーカー行為によって徐々に崩壊していきます。一方、彼女が崇拝する若手俳優・ユウキは、先輩俳優・浩司からの病的な愛情に囚われていました。

ストーカーによる恐怖と、芸能界の中で繰り広げられる一方的な愛の攻防。この二つの愛憎劇が交錯し、物語は最悪の展開に突き進んでいきます。

あや
あや
「戦慄のサイコサスペンス」といって文句なし!

描かれるストーカー視点がおぞましすぎる!

(もっと、毎日ちゃんとはづきちゃんを見ていよう)(もっと、何回も電波を送ったり愛の電話をかけてあげたりしなくちゃいけない) きっとまだ、それが足りないから、はづきちゃんは俺の存在に──いつもかたわらでじっとはづきちゃんを見守っている優しい俺のいることになかなか気がつかないのだ。

はづきの言動にいちいち傷ついたり、激しく怒ったりするストーカーの視点は、読んでいて恐ろしく不快感に満ちていました。

ただ、それだけではないモヤモヤも。それは、ストーカー自身が社会的ヒエラルキーで見れば「弱者」に位置しているからです。

働いている様子もなく、友人もいない。親の仕送りで生きる彼は、アイドルを追いかける女性たちから「同じ人間なのに」「可哀想」と同情されるような存在として描かれています。

しかし、ストーカーは、はづきを徹底的に「下」に見ています。

社会的には「弱い」存在が、一方的に女性を狙い、優越感に浸る歪み。この矛盾が、ただの恐怖だけではない、嫌悪感とモヤモヤを生み出していました。

「ストーカー」と「一方的な愛」

あなたとワルツを踊りたい あらすじ 栗本薫 感想

この作品の構成が天才的だと思うのは、「ストーカーによる一方的な支配」と、「芸能界での一方的な愛」が同時に描かれる点です。

ユウキに執着するのは、先輩俳優・浩司。ユウキも男性で、同性愛です。ここがすごい!

この女性が男性に狙われるストーリーだけでなく、性別を超えた「執着する側」と「執着される側」を描くことで、「狂気的な愛情は性別に関係ない」というテーマが際立っています。

俺は追っ払えないぜーーどうするんだよ。俺は追っ払われても何回でも戻ってくるし、待ち伏せだってするし、お前を手にいれるためならあらゆるコトするぜ。

あや
あや
ボーイズラブの世界では「強引なアプローチに押し切られる」展開もよくありますが、本作を読むと、「グイグイいけば押しきれると思うなよ?」と言いたくなります……。

ストーカーと、芸能界の愛憎劇。この二つが同時に展開されることで、物語に奥行きが生まれていると感じました。

「私だったかもしれない」どころじゃなく、はづきは「私」だった

あなたとワルツを踊りたい あらすじ 栗本薫 感想

この作品を読んで、何度も「私だったかもしれない」と思わされました。いや、「私だった」と言ってもいいかもしれません。

 もしかしたらはづきはまだ生まれてないのかもしれない。パパとママのふところのなかで、まだ生まれてないままずっと二十三年も生きてきてしまったのかもしれない。

推しの芸能人が人生のすべて——という生き方もそうですが、家族との距離感に息が詰まりそうで、一人暮らしをしたくてたまらなかった彼女が、かつての自分のようにも感じられました。

しかも当時は、女性が一人暮らしをすることにハードルの高かった時代。ようやく自由を手に入れたと思ったら、ストーカーの標的になる理由になってしまう不条理。

「ストーカー」も「一方的な愛」も、鳥の糞に当たるようなもので、自分の意識では未然に防ぎようがありません。

あや
あや
昔に比べて、今の時代は少しは良くなっていると信じたいです。

不運にも標的にされてしまったら、とにかく逃げる。生き延びる。それしかありません。

「わたし」はどうしたらいいか、ずっと考えさせられる作品でした

きっと当時も今も、現実に「はづき」はいくらでもいます。そして、それは「わたし」かもしれません。

小説は、「自分だったかもしれない」世界を深く味わうことのできる疑似体験ツールともいえます。この作品を読んで、「わたし」はどうしたらいいか、ずっと考えさせられる作品でした。

あや
あや
この後味が、「わたし」を生かしてくれる。そんな気もします。
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