ディーン・R・クーンツの『ストーカー』。
このタイトルとあらすじを読んだとき、私は「どんなおぞましいストーリーが待っているのか……」と身構えていました。
ですが、実際に読んでみると、『ストーカー』はただのサイコスリラーではなく、家族の絆や成長にグッとくる感動的な作品でもあり、個人的にかなりお気に入りです!
どこが「ストーカー」……? 物語のベースにある異常な愛
新婚のアレックスは11歳の義弟コリンとともに、妻の待つサンフランシスコまで大陸横断の旅に出ます。
楽しいはずのドライブを悪夢に変えるのが、一台のヴァン。最初は「偶然か?」と思うものの、やがてその追跡が明らかに意図的なものだと分かっていく……。
あらすじを読む限りでは「これのどこがストーカー?」と思いましたが、実際に読んでみて納得。この物語の根底にあるのは、異常な愛と妄執です。
このヴァンの正体が明かされたとき、ただの追跡劇ではなく、「ストーカー」としての狂気が浮かび上がります。
義兄弟の絆が最高!アレックスとコリンの関係性

私が本作を好きになった理由は、アレックスとコリンの関係性が素晴らしかったこと!
アレックスとコリンは年が一回り以上離れている義兄弟ですが、実は「弱虫なところが似た者同士」。
なんてことだ。おびえた小さな男の子がいつまでも消えず、大人になるのを阻んでいる。おまえはいつまでたっても大人になれないのか、アレックス。この先ずっと、ちょっとしたことにもおびえていくのか。(中略)これまでずっとアレックスは人々をこわがってきた。臆病のあまりだれとも親しくなれず、自信がなくて愛することをおそれていた。コート二ーに会うまでは。そしてコリンに。
アレックスはずっと臆病で、人と深く関わることを避けてきたタイプ。でも、妻や義弟のために「変わろう」と決意し、成長していきます。
一方のコリンは、そんな兄を信頼しながらも、大好きだからこそ「大人ぶろう」とする健気さがあるんです。
例えばこんなシーン。
アレックスはいささか男らしくない態度を認めるべきかどうか一瞬ためらった。不気味なヴァンに追われて不安になり、動揺し、警戒して、心配になったのだ。が、コリンに対しては正直がいちばんだった。
「そりゃ、こわかったさ。ちょっぴりだが、こわかったことに変わりはない。とうぜんだろ」
「ぼくもこわかった」ばつの悪い思いをしているようすはなかった。「でも、大人になればこわいものなんかなくなると思ってたんだ」
アレックスが「強がる」のではなくコリンに対して「正直であること」を選んだシーンは、とても印象的でした。
そしてコリンの視点から見た、アレックスへの想いがまた泣ける……!
ときにはアレックスに飛びついて抱きつき、ずっとしがみついていたいと思うこともあった。コートニーがアレックスとつき合っているあいだ、そのうち彼を失うんじゃないかとずっと心配だった。(中略)アレックスが自分たちのものになったいま、彼に抱きつき、そばにうろついて彼からいろいろ学びたかった。しかし、抱きつくような真似はできなかった。気持ちを表す方法としては幼すぎるように思えるから。長いことせいいっぱい背伸びをして大人ぶってきたため、いまさらほんとうの自分を出せなかった。
この二人の関係が物語の核になっているからこそ、ストーカーの異常な執着との対比が際立って感じられました。
「クーンツ作品、もっと読みたい!」となった1冊
私は以前、クーンツの『インテンシティ』を読んで、あまりのショックにしばらく読書を休みたくなるほどの衝撃を受けました。
そのためちょっとクーンツ作品はトラウマになっていて『ストーカー』も同じような凄惨な話かと思っていたら、まさかの義兄弟愛にグッときて夢中に。
「クーンツ作品、もっと読みたい!」という気持ちになった1冊です。


