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暗黒街女王の切実「黒蜥蜴」(江戸川乱歩)読書感想文

江戸川乱歩 名作ミステリーの世界 黒蜥蜴 感想
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名探偵・明智小五郎と美しき女盗賊の対決を描く江戸川乱歩の長編探偵小説「黒蜥蜴(くろとかげ)」。アシェットの隔週コレクション「江戸川乱歩と名作ミステリーの世界」第9号に収録されています。

本作はこれまでに読んできた「江戸川乱歩と名作ミステリーの世界」の収録作品のなかで、個人的にトップ3に入るほどお気に入り。

私的トップ3を考えたとき「黒蜥蜴(江戸川乱歩)」「断崖(江戸川乱歩)」「火星の女(夢野久作)」と即決できたのですが、改めて考えるとどれも歪な男女の物語なんですよね…

あや
あや
ずっと探偵小説にロマンスはいらない、と思っていたので驚きの発見でした!

美しき盗賊・黒蜥蜴VS名探偵明智ーー江戸川乱歩「黒蜥蜴」

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もう90年近く昔の作品ながら、色褪せることのない江戸川乱歩の「黒蜥蜴」。名探偵・明智小五郎と強敵・黒蜥蜴の攻防を描いた長編作品です。

暗黒街(裏社会)に君臨する美しき女王・黒蜥蜴。

彼女は人でも物でも美しいものに目がない盗賊で、性格はひとことで残忍です。お気に入りの人間を剥製にしたり、「命と引き換えの芸術」と水槽に落とした人が溺れる姿をみて楽しんだり、サイコパスそのもの。

黒蜥蜴の次なるターゲットは、宝石商の美しき令嬢と国宝級のお宝。黒蜥蜴は大胆にも、名探偵と名高い明智を避けるどころか真っ向から勝負を挑み、出し抜こうと仕掛けていきますーー。

黒蜥蜴以外にはなれない美しいひと

江戸川乱歩 名作ミステリーの世界 黒蜥蜴 感想

なんといっても本作の魅力は、黒蜥蜴そのもの。ただ容姿が美しい、部下をたくさん従える大盗賊、という“設定”ではなく、彼女の激しい“感情”に心を揺さぶられました。

引き裂かれるような思い、とでも言うのか、ブレるのとは違い、他者と関わるからこそ生まれる「自分ではない自分」。

それもまた自分の一部だと認められればいいけれど、そうとは許されない立場であったり環境であったり、黒蜥蜴が誰よりも黒蜥蜴に縛られていたのかもしれない、と切なくなります。

基本的に物語は黒蜥蜴側から描かれており、彼女の目に映る明智はどこか飄々としていて、少年みたいなところがありました。読み終えた今、改めて黒蜥蜴の眼差しや明智の姿を想像してみると…素敵な一組の男女が浮かび上がります。

本作品は敵同士でありながら互いの才能を認め、全力でぶつかり合う男女の、ある種の愛の物語と言えるでしょう。黒蜥蜴と明智の魂のぶつかり合い、定期的に読み返したくなる作品です。

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