青空文庫のアプリで気軽に読み始めた江戸川乱歩の『悪魔の紋章』。
あ行から始まる作品リストの上位にあった長編という理由だけで開いてみましたが、天才殺人鬼VS天才名探偵の対決がスリリングで、思わず引き込まれて一気に読んでしまいました。
【あらすじ】神出鬼没で不気味な指紋(三重渦状紋)=『悪魔の紋章』
実業家・川手庄太郎のもとに、差出人不明の脅迫状が届きます。警察に相談しても相手にされず、名探偵・宗像博士に助けを求めますが、その後も不可解な事件が次々と発生……。
犯行現場には、奇妙な「三重渦状紋」の指紋が残されています。重なった三つの渦巻きは、不気味に笑っているようにも見え、しかも神出鬼没に現れることから、「悪魔の紋章」と感じるほど謎めいた存在でした。
やがて事件は、凄惨な猟奇犯罪へと発展し、川手はじわじわと追い詰められていきます。
「まるで復讐のお手本」読者の精神まで揺さぶる怖さ
展覧会で蝋人形のように並べられた美しい死体や、恐ろしい見世物小屋など、乱歩らしい独特の世界観が広がっていました。
「こんなに大風呂敷を広げて、無事に収集がつくのか……?」と思いましたが、最後まで破綻なくまとまり、ミステリーとして成立していたのはお見事!
また、犯人の犯行は単なる殺人ではなく、川手をじわじわと精神的に追い詰める執拗なもので、「ここまでやるのか……」とゾッとするほどでした。もはや悪夢のような展開で、被害者が次々と出るにもかかわらず、警察がほとんど役に立たず(笑)、絶望感が強まるばかり。
しかし、この過剰ともいえる復讐劇が、乱歩の世界観で確かに「生きている」と感じられました。「絶対に許さない」という執念は、読者の精神まで揺さぶる怖さがあります。
“明智小五郎じゃない”警察から一目置かれる名探偵

川手が依頼する名探偵が、かの明智小五郎ではなく、「宗像博士」なる人物というのが意外で新鮮なポイントでした。
明智のいる世界線で、宗像博士もまた警察から一目置かれる存在として活躍しています。できれば事前に何も調べず、前情報なしで読み始めると、より物語を楽しめると思います。
犯人の復讐は天才的かつおぞましく、次々と凶行が繰り広げられるからこそ、最後に名探偵が見せる鮮やかな推理がより際立っていました。

