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これは恩田陸のアンチ・ミステリーか『夏の名残りの薔薇』読書感想文│冬の始まりに思い出す1冊

恩田陸 夏の名残りの薔薇 感想
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恩田陸の長編小説『夏の名残りの薔薇』を再読しました。

読み返したいくらい面白くて好きな作品、というのはもちろん、気温がぐっと下がる今の時期が物語の季節とリンクしていて、冬のはじまりに思い出す1冊なんです。

さらに、初めて読んだときは特殊な構成に戸惑ってしまったので、次はさらに深く読んで理解したい、という気持ちもありました。

ミステリ? 幻想? もはや「恩田陸」というジャンル小説

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あの贅沢な監獄には、三人の女が待っている。

『夏の名残りの薔薇』は、山頂の高級ホテルで開催される3姉妹の豪華なパーティで、殺人事件が起こるというもの。

これだけを読むとミステリーの王道をゆくあらすじですが、実際には「これはミステリーなのか?」と戸惑ってしまう、幻想感のある物語です。

戸惑う理由は、この作品ならではの特殊な構成と展開にあります。

長編小説で、ひとつの場所と同じ登場人物たちによる物語なのですが、章が変わるごとに“事実がズレる”んです。

あや
あや
どういうこと? って思いますよね。でもまずは詳しく調べず読んで困惑してほしいです…!

タイトルの『夏の名残りの薔薇』は、19世紀のヴァイオリニスト、ハインリヒ・W・エルンストが作ったクラシック曲から名付けられたもの。この曲は1つのテーマを繰り返し変奏していく特徴があり、まさに“同じなのにちょっとずつズレていく”物語とリンクしています。

そのため、一般的なミステリー小説のようにひとつの謎があって、それを解き明かすという類の話ではありません。ミステリー寄りの幻想怪奇小説……というのも説明としてはいまいちしっくりこず、「恩田陸」というジャンルそのものなんじゃないかというのが初回の感想でした。

そして再読していて浮かんだのが、「アンチ・ミステリー」という言葉です。

ミステリーでありながら、ミステリーであることを拒んでいる作品。……まさに『夏の名残りの薔薇』は、恩田陸のアンチ・ミステリーなのではないかと勝手に納得してしまったのでした。

“ミステリー好き”を凝縮した不穏でノスタルジックな世界観

恩田陸 夏の名残りの薔薇 感想

自身が大変な読書家としても知られる著者らしく、作品の舞台や人間関係、散りばめられたモチーフに、濃度高めのミステリー愛をひしひしと感じます。

「でも素敵」
桜子は私の背中に手を回した。
「何が?」
私が尋ねると、彼女はにっこりと笑った。
「これって嵐の山荘よ。血の雨が降るわ」

嵐のような雪でどす黒い山頂の、貸し切り状態の高級ホテル。美しい男女。豪華なパーティ。背徳的な人間模様。……ミステリ好きにはたまらないシチュエーションが、これでもかと詰め込まれています。

さらに、三大奇書に数えられる『ドグラ・マグラ』が話題に出てきたり、クリスティーのベルギー人探偵にそっくりな人物が出てきたりと、ワクワクが止まりません。

美しい男と同性愛的な執着のサブプロット

時光は、昔から美しい子どもだった。彼の無垢を愛していた私は、それを守るために努力をした。そのことが、彼から成熟や、清濁併せ呑む大人の知恵などを奪い取る結果になったかもしれない。だが、私はそのことを後悔していない。

中性的な美しさを持つ時光という男性。引用部分は姉の桜子の独白で、性別問わず誰から見ても「きれいだ」と遠目に眺められるような人物です。

具体的な年齢は出ておらず、登場人物たちの会話から少なくとも30代半ばくらいかなと予想することしかできないのですが、若さゆえではなく、人間としての無垢な美しさを宿しているーー自分の好みとして、やっぱり時光という人物と、彼を愛する男の存在は無視できません。

あや
あや
美しく、静かな男で物語のなかでも強烈な存在感を放つわけではありませんが、登場すると思わず嬉しくなる人物でした。

“ゼロ時間”までのモラトリアムを味わう恩田陸版アンチ・ミステリー

恩田陸 夏の名残りの薔薇 感想

ミステリーというと、魅力的な謎が中心に鎮座しているイメージですが、アンチ・ミステリー的な本作を読むと、ロジカルな謎ときがマストというわけでもないのかなという気がしてきます。好き・嫌いは人によって分かれるとは思いますが、私は『夏の名残りの薔薇』がとても好きです。

本作を読んでいて、ふと頭に過ったのがクリスティーの『ゼロ時間へ』。ゼロ時間は、殺人が起こる瞬間を指していて、そこに至るまでにはカウントダウンとなるべき出来事も起こっていた、というふうに理解しています。

その意味でいうと、本作はゼロ時間への不穏と予感に満ちていて、その訪れをただ待つしかないモラトリアムの物語、とも言えるかもしれません。

あや
あや
「何かが起こるかもしれない」という緊張を、こんなにも甘く痺れるように味わえるのは、恩田陸の小説ならではです。
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